掲載誌 | 有料メールマガジン「Scan Security Management(2005年度)」 |
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掲載年月 | 2005年9月27日 Vol.124 |
執筆者 | 三原崇人・井上きよみ(アイドゥ) |
金融市場、特に株式市場において個人投資家の影響力が拡大している。彼らがインターネット上で話題になった銘柄に群がり、株価が上昇することは日常茶飯事である。
背景には、インターネットを介して株などの金融商品を売買するネットトレーディングの一般化・大衆化が挙げられる。デイトレーダーと呼ばれる、1日の間に何度も売買を繰り返す投資家の存在も、もはや珍しくなくなった。
デイトレーダーには取引結果や銘柄分析を投稿しているブログユーザーも少なくない。「株 ブログ」などで検索すれば大量にヒットするはずだ。彼らのブログを参考に取引している人もいるだろう。
ところで、ネット上の情報で度々問題となるのが風説の流布である。風説の流布とは、根拠のない噂を世間にまき散らすことで、投資・金融の世界では「株などの相場を操作する目的で虚偽の情報・噂(風説)を流すこと」となる。
証券取引法の第158条では、
何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくは有価証券指数等先物取引等、有価証券オプション取引等若しくは外国市場証券先物取引等のため、又は有価証券等の相場の変動を図る目的をもつて、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。
とし、風説の流布を禁止している。違反した場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(または併科)が科せられる。(証券取引法197条)
例えば、買っておいたA社の株を高値で売りさばこうと目論み、
などと事実無根の情報を流せば、証券取引法違反となる。
それでは、以下のような場合はどうだろうか。
C銀行の株には興味がないが、C銀行が1ヶ月後に倒産するとブログ上で予言した。
この場合、証券取引法でいう風説の流布に当たるか否かは非常に微妙なところである。この例の場合、株相場の操作を目的としたものであるとは、必ずしも言えないためだ。では、証券取引法上問題がなければいいのか。いや、そうではあるまい。これがきっかけとなってC銀行で取り付け騒ぎが起こるかもしれないし、騒ぎで企業ブランドを傷つけてしまう可能性がある。そうなれば損害賠償などを求められることになろう。
有価証券発行者や証券会社などから対価を得て記事を書く場合も、証券取引法の規制を受ける。その第169条では、明らかに広告である場合を除き、投資について判断を提供すべき文書をメディアに掲載・放送する場合には、その旨を表示しなければならないとある。
例えば、D社からいくらかの金銭を得た上で中立な立場を装い、「D社の株は買い」というメッセージを発信することがこれに当たる。
「インターネット上の情報はウソだと思え」。こんなことをいう人がいるほど、曖昧・未確認な情報の多いのがインターネットの世界である。その大きな要因は匿名性だ。ブログは実名やハンドルネーム(ペンネームのようなもの)で運営しているものが多く、非匿名のように感じることがある。しかし、実在の人物か否かを照合するのは困難であり、匿名性は排除されていない。
ブログをはじめインターネット上に書かれた情報のままに金融取引をしようとするのは、決してお勧めできない。情報の取捨選択の手段として使うのであればまだしも、信じきってしまうと損する可能性は否めないし誰も助けてくれない。投資関連サイトには、投資の際は自らの判断・責任で行うよう「自己責任の原則」が書かれているが、まさにその通りである。
有名企業社長の運営する社長ブログは大変な人気である。企業の様子が見えるのも魅力だが、経営者の人格・性格を判断する材料にも使える。ブログで経営陣が会社について述べることは、プロモーションだけでなく広い意味でのIR(投資家への情報開示活動)に繋がり、企業の透明性を高める意味でもプラスに働く。
しかし、行き過ぎた情報開示はインサイダー情報になり得る。もし、そうならなくとも、情報管理体制に疑問を持たれるだろう。第2回の中でも述べたが、社長ブログにはどこへ行った誰に会ったなどと記されている場合がある。だが、社長など経営陣の行動内容をあまり詳細に書いてしまうと、インサイダー情報になりかねない。
インサイダー情報とは、インサイダー取引に繋がる情報のことである。
インサイダー取引については、証券取引法上で会社関係者は、上場会社等の業務等に関する重要情報を知った場合は、その重要事実が公表された後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等の売買その他有償の譲渡または譲受をしてはならないと定義されている。会社関係者とは社長は当然のこと役員、その配偶者や二等親内の血族、大株主や一般従業員、関係会社役員も含まれる。また、もし退職しても1年以内は準関係者となり、規制の対象である。違反すれば3年以下の懲役または300万円以下の罰金となる。
「上場会社等の業務等に関する重要情報」とは、例えば、上場会社もしくは登録会社の、合併・提携、増資、上場廃止の申請などの未公開情報である。
上場企業などの経営陣がブログを行う際には、メリットとデメリット、そしてリスクを理解し、会社としてあらかじめ運営方針を固めておくことが必要である。また、投稿制限を設けるなどのチェック体制を敷くことも有効である。
上記のように、ビジネスシーンでブログの登場する機会が増えている。IRのような企業情報の開示ツールとしてだけでなく、潜在顧客の掘り起こしや顧客の声を収集するマーケティング・コミュニケーションツールとして活用しようとする企業も多い。
例えば、日産自動車のTIIDAブログは雑誌などでも取り上げられた有名な事例である。
ただ、用途が増えれば、問題や懸念事項も増える。リスクを完全に排除しようとすれば、ブログに手を出さないことが最善となるが、リスクを取ってチャンスに変えていくことも必要ではないだろうか。これからもブログを有効活用する企業がまだまだ出てくるであろう。
このブログ記事を参照しているブログ一覧: ブログにまつわる法律相談室 第4回 ブログ界に溢れる投資情報
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